■ はじめに
賃貸マンションやアパート、テナントビルの建築で、多くの方が最初に悩むのが「構造」です。
RC造(鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)、木造。インターネットで調べれば、こうした比較表はすぐに見つかります。
| 構造 | 建築コスト の傾向 |
法定耐用年数 (住宅用) |
|---|---|---|
| 木造 | 比較的抑えやすい | 22年 |
| S造(鉄骨造) | 中間 | 34年(重量鉄骨) |
| RC造(鉄筋コンクリート造) | 高くなりやすい | 47年 |
ただ、コンストラクションマネジメント(CM)の立場から先にお伝えすると、この表だけを根拠に構造を決めると、土地活用は失敗しやすくなります。構造選びの答えは表の中ではなく、土地属性、人口動態、事業計画の三つにあります。
この記事では、坪単価の比較では見えてこない「構造の決め方」を、土地属性、人口動態、事業計画から整理していきます。
■ 1. 「グレードが高い構造=良い構造」という誤解
構造選びでよくある誤解が、「坪単価が高い構造ほど、優れた構造だ」という考え方です。
たしかに、SRC造やRC造は建築コストが高く、耐用年数も長いため、「上位の構造」という印象を持たれがちです。しかし、構造に「どれが上か」という序列があるわけではありません。
大切なのは、その土地の属性と、事業計画、どの構造が合っているかという「適材適所」の考え方です。
構造は、比較表を眺めて選ぶものではなく、土地属性、人口動態、事業計画から逆算して決まっていくものです。
ここでひとつ、質問です。
国道沿いの敷地と、駅前ロータリーに面した狭小地。同じ6階建ての賃貸マンションを建てるなら、あなたはそれぞれ、どの構造を選びますか?
次の章で、私たちの答えと、その理由をご紹介します。
■ 2. 立地と用途で変わる、RC造・S造・木造の「適材適所」
● 国道沿いの6階建てなら、RC造
国道沿いの敷地でまず考えなければならないのが、大型トラックの通行による「車の振動」です。
振動や音は、入居者にとって毎日の生活ストレスに直結します。ここで揺れを抑えられるかどうかが、入居者の満足度、ひいては長期的な入居率を左右します。だからこそ国道沿いでは、建物の重さで揺れを抑えられるRC造(鉄筋コンクリート造)が有力な選択肢になります。
構成としては、たとえば1・2階を事務所として貸し出し、上層階をレジデンス(住居)にする形が考えられます。居住空間の静けさと快適性を守るうえで、RC造の重厚感が活きてきます。
● 駅前ロータリーの狭小地なら、S造(鉄骨造)
一方、駅前ロータリー付近はどうでしょうか。通行するのはタクシーなどの乗用車が中心で、大型トラックによる振動リスクは低くなります。代わりに課題になるのが、隣地との境界線が極めて近い「狭小地」であることです。
ここで強みを発揮するのがS造(鉄骨造)です。S造はRC造に比べて柱や壁を薄くできるため、限られた敷地でも内部の有効空間を広く確保できます。
1階を店舗(テナント)にする場合は、この差がそのまま収益性の差になります。壁や柱の圧迫感がないため空間を広く使え、将来テナントが入れ替わる際にも転用が効きやすい。駅前ならではの高い店舗需要に、柔軟に応えられる構造です。
● 1階だけ「ラーメン構造」にする、という選択肢もある
さらに踏み込んだ設計として、ひとつの建物の中で構造形式を使い分ける方法もあります。
ここまでお話ししてきたRC造・S造・木造が「何でつくるか(材料)」の話だとすると、こちらは「どう支えるか(構造形式)」の話です。
ラーメン構造とは、柱と梁を一体化させた骨組みで建物を支える形式で、壁で支える必要がないため、室内に柱の少ない広い空間をつくれます。
一方の壁式構造は、壁面で建物を支える形式で、柱や梁が室内に出っ張らず、コストを抑えやすいのが特徴です。
この2つを組み合わせて、1階部分のみをラーメン構造にして店舗や駐車場として広く自由に使い、上層階は壁式構造にする――といった設計も可能です。1階の店舗需要に応えながら、建物全体のコストは抑える。使い勝手と建築コストのバランスを、構造計算のレベルから最適化していくアプローチです。
こうした工法の組み合わせまで含めて検討できるのも、設計が固まってからではなく、企画段階から構造を考えることの価値だと考えています。
構造選びは「どちらが上か」ではなく
「どちらが土地に合うか」
同じ6階建てでも、立地が変われば答えは変わる――これが、冒頭の質問に対する私たちの答えです。構造に序列はなく、あるのは適材適所だけです。
そしてもうひとつ。構造選びには、立地や用途と同じくらい重要な視点があります。それが「お金」、つまり融資と税務の視点です。
■ 3. 融資と減価償却から見る構造選び
法定耐用年数と融資期間のリアル
インターネットで調べると、「耐用年数の長いRC造は融資に有利」という情報をよく見かけます。たしかに法定耐用年数は、木造22年、S造(重量鉄骨)34年、RC造47年と差があります。
しかし、実際の融資の現場は、この一般論とは少し違います。
現在は、木造でも30年の融資を組むことができます。S造なら30年は確実で、35年まで組めるケースもあります。RC造は40年まで組めますが、融資期間を長くすれば、その分金利は上がります。
そして今は、金利の上昇局面です。「長く借りられるから」という理由だけで、むやみに長期の融資を組むことは、私たちはあまりおすすめしていません。毎月の返済額だけを見るのではなく、総返済額と金利リスクまで含めて、構造と融資をセットで考える必要があります。
減価償却から逆算する構造選び
もうひとつ、見落とされがちなのが税務の視点です。
構造選びは、収益性だけでなく、会計上どれだけ経費を計上できるかにも直結します。たとえば、利益の出ている法人が「減価償却を大きく計上して、課税所得を抑えたい」という目的を持っている場合、耐用年数の短い木造で計画するほうが有利になります。
つまり、同じ土地・同じ予算でも、「将来売却するのか、持ち続けるのか」「個人か法人か」「何のために建てるのか」によって、選ぶべき構造は変わるということです。
構造は建築の話であると同時に、ファイナンスの話でもあります。だからこそ、設計が始まってからではなく、企画段階で構造を決めることが、建築の成否を左右します。
■4. 構造選定で見落とされる「3つの視点」
ここまで、立地・用途、そして融資・税務の話をしてきました。あらためて整理すると、構造選定には次の3つの視点が必要だと私たちは考えています。
- 経営的な観点 ―― その構造で、事業として成立するか。出口(売却・承継)まで見据えられているか
- ファイナンス ―― 融資期間、金利、減価償却。お金の設計と噛み合っているか
- 実需 ―― 振動や音、空間の使いやすさ。実際にそこで暮らす人・使う人にとってどうか
多くの構造選びの失敗は、この3つのうちどれかが抜け落ちたまま計画が進んでしまうことで起こります。
そして、抜け落ちやすいのには理由があります。
提案する側には「売りたい形」がある
ハウスメーカーや建築会社には、それぞれ自社の得意な工法や規格があります。提案が「その会社の売りたい形」から始まること自体は、ビジネスとして自然なことです。
ただ、施主様の側から見ると、最初に提示された構造が、3つの視点すべてを検討した結果であるとは限らないということは、知っておいていただきたいのです。
その提案は、あなたの土地の振動条件を踏まえていますか。あなたの融資条件や税務状況から逆算されていますか。将来の売却まで見据えていますか。――この問いに答えられない提案は、まだ「あなたのための計画」になっていない可能性があります。
「自分が借金を背負うつもりで提案できるか」
私たち工事企画が大切にしているのは、「自分がこの借金を背負うつもりで、この提案ができるか」という基準です。
建築は、施主様が数億円の借入を背負う意思決定です。だからこそ私たちは、良い面だけをお伝えするのではなく、維持費や税金、将来のリスクまで含めて、契約の前にすべてお話しすることを大切にしています。構造の選定も同じです。誰かの「売りやすさ」ではなく、施主様の人生とお金の計画に合っているかから逆算する。それが、第三者の立場で企画に関わるコンストラクションマネジメント(CM)の役割だと考えています。
とはいえ、言葉だけでは伝わりにくいと思いますので、実際の事例をひとつご紹介します。「木造では無理」と言われた土地の話です。
■ 5. 事例:崖地で「木造は無理」を覆した計画
構造を変えると、事業そのものが変わる。それを象徴するのが、崖地でのマンション計画の事例です。
当初案
擁壁工事に2億円かかる「RC造8階建て」
この計画は当初、大手ハウスメーカーの提案で「RC造の8階建て」として進んでいました。
問題は、敷地が崖地だったことです。当初案では、擁壁を壊して平地に整備するために約2億円の費用が見込まれていました。総事業費13億円の大規模計画です。
しかし、この2億円は建物を建てるためのお金ではありません。収益を一円も生まない費用です。実際、この前提のままでは事業計画収支は毎年約1,000万円の赤字となる計算で、金融機関の融資承認も得られない状況でした。
発想の転換
「木造3階建て」で崖を活かす
ご相談を受けた私たちが検討したのは、崖を壊すのではなく、崖を活かすという方向でした。
この土地には「木造では無理」という前提がありました。しかし、崖地から建物を一部離して配置することで、木造3階建てでの建築が可能になりました。
さらに、崖という敷地条件を、弱点ではなく価値に転換しました。擁壁を壊さずに残したことで、道路からの視線を遮る「目隠し」として機能させ、そのうえで、建物までのアプローチを空間演出として設計することで、隠れ家のようなプレミアム感のある物件として企画したのです。
結果
総事業費13億円 → 3億円、赤字計画 → 黒字に
構造と規模を見直した結果、総事業費は当初の13億円から3億円規模に。毎年約1,000万円の赤字だった収支計画は、毎年400〜500万円の安定した黒字を確保できる計画へと転換しました。
投資額を減らしながら、キャッシュフローは増やす。事業としての健全性が明確になったことで、金融機関の融資承認も得られました。
ここで注目していただきたいのは、この逆転の起点が「構造の変更」だったことです。RC造か木造かという選択は、坪単価の差だけの話ではありません。擁壁費用、事業規模、融資、収支――計画のすべてを左右する、事業の根幹の意思決定なのです。
■ まとめ:あなたは、どのように構造を決めますか?
RC造・S造・木造。それぞれの特徴を知ることは、もちろん大切です。
しかし本当に重要なのは、その先にある問いです。
その構造は、あなたの土地の条件に合っていますか。 あなたの融資や税務の計画から逆算されていますか。 そして、将来の売却や承継まで見据えたものになっていますか。
構造の選定は、坪単価の比較で決まるものではなく、立地・用途・経営・ファイナンス・実需――計画のすべてが交差する、事業の根幹の意思決定です。だからこそ、設計が始まってからではなく、企画の段階で、前提から整理して決めることが欠かせません。
工事企画では、コンストラクションマネジメント(CM)の立場から、施主様の人生背景と出口まで見据えて、構造を含む建築計画の前提を一緒に整理するお手伝いをしています。
すでにハウスメーカーや建築会社から提案を受けている方も、「別の選択肢はないのか」という視点で、一度立ち止まって見直してみてください。もし私たちでお力になれることがありましたら、いつでもご相談ください。
当社代表・掛川がラジオ出演いたしました(YouTube公開中)
「これからの10年、どのような組織を築くのか。」 起業から現在に至るまで、迷いながらも決断を繰り返してきた経営者の本音を語っています。 建設業界の未来を見据えた、今の正直な想いをぜひお聞きください。
【経営者たちのラジオ】「工事の三方よし」とは?
ABCラジオ 2026/01/05
【経営者たちのラジオ】やりたくない仕事を率先してやる!
ABCラジオ 2026/01/12